「もしもし、株式会社〇〇の山田と申しますが、杉本様(仮名)のお電話でよろしいでしょうか?」
平日の昼下がり、職場で鳴った1本の知らない番号からの電話。それが、私の資産を蝕む悪夢の始まりでした。
当時、私は34歳、メーカー勤務の年収620万円。将来への漠然とした不安から「資産運用」という言葉にアンテナを張っていた、ごく普通のサラリーマンでした。
この記事は、ごく普通のサラリーマンだった私が、巧みな不動産投資の勧誘に乗り、気づいた時には3,000万円のワンルームマンションを契約していた実録ストーリーです。なぜ安易に契約してしまったのか、そしてどうすればこの罠を回避できたのかを、専門家の解説を交えて克明に記録しました。
あなたの元にかかってくるかもしれない「一本の電話」に備え、ぜひ最後までお読みください。
【第1章・実録】私がハマった悪質勧誘の生々しい全手口
今思えば、彼らの手口は典型的なものでした。しかし、渦中にいると正常な判断ができないものです。私が契約に至るまでの流れを、ありのままにお話しします。
手口1:突然の電話と「あなただけ」という特別感の演出
電話口の山田と名乗る男は、非常に丁寧な口調でした。「以前、弊社の提携先にご登録いただいた情報をもとに、将来設計に役立つご提案をさせて頂きたく…」と、もっともらしいことを言います。どこで番号を知ったのか聞いても「記録が古く詳細は…」と濁すばかり。
そして「今回、〇〇駅に非公開の優良物件が出まして、限られた方にのみご案内しております。杉本様のご年収ですと、非常に有利な条件で資産形成が可能かと…」と、特別感をくすぐってきました。
手口2:「聞くだけでOK」で下げる心理的ハードル
怪しいとは思いつつも「非公開物件」という言葉に少し心が動いた私。「いえ、結構です」と断ると、男は食い下がります。「いや、本当に見るだけ、聞くだけで結構ですので!今後のご参考になるかと!すぐ近くにおりますので、15分だけお時間いただけませんか?」
「15分だけなら…」そう思ったのが、最初の間違いでした。
手口3:逃げ場のないカフェでの劇場型プレゼン
翌日、会社の近くのカフェで会うと、現れたのは人の良さそうな山田。しかし、綺麗なパンフレットを開いた途端、彼はセールスマンの顔に変わりました。
「このシミュレーションをご覧ください。家賃収入でローンを返済し、20年後には無借金の資産が手に入ります。節税効果で毎年15万円の還付があり、生命保険代わりにもなります」
提示された資料は、家賃が一切下がらず、空室も出ない前提のバラ色の未来。私が「でも、空室とか…」と口にすると、「このエリアは単身者需要が旺盛で、過去5年空室ゼロです!プロの我々が管理しますからご安心ください!」と自信満々に一蹴。そして、とどめの一言。「ただ、明日には別の方が内見予定でして…」
手口4:”上司”登場と長時間拘束による判断力の麻痺
それでも私が渋っていると、「杉本さん、何がご不安です?では、責任者の鈴木を呼びますので!」と電話。5分後に現れた上司の鈴木は、いかにもやり手といった風貌。「杉本さん、こんなチャンスは二度とありませんよ。やらない理由があるんですか?」と、少し高圧的に詰め寄ってきました。
気づけば2時間が経過。私は完全に疲弊していました。「もう、これで解放されるなら…」そんな思考が頭をよぎり始めました。
手口5:「仮審査だから」で進めるローン契約
鈴木は最後のカードを切ります。「では、あくまでローンの仮審査だけ進めましょう。これでダメなら我々も諦めますから!」そう言われ、私は申込用紙に個人情報を記入してしまいました。数日後、「杉本さん、おめでとうございます!審査、通りましたよ!」という電話で、外堀を完全に埋められたことを悟ったのです。
【第2章・失敗の本質】なぜ私は断れなかったのか?プロが解説する心理トリック
杉本さんの事例は、決して特別なものではありません。悪質な業者は、人間の心理的な弱点を巧みに利用して契約を迫ります。彼がハマってしまった罠を、専門家の視点で分析しましょう。
- シミュレーションの罠:家賃下落、空室、管理費・修繕積立金の値上がりといった、必ず発生するリスクが意図的に無視されていました。良いことしか見せない資料は100%信用してはいけません。
- 希少性の原理:「非公開物件」「あなただけ」「今決めないと」という言葉で、「このチャンスを逃すと損をする」という損失回避の心理(プロスペクト理論)を煽られました。
- 権威への服従:「プロの私たちが」「責任者の鈴木です」という肩書に、「専門家が言うなら間違いないだろう」と無意識に従ってしまいました。
- 一貫性の原理とサンクコスト効果:「話を聞く→会う→審査を受ける」と小さなYESを重ねたことで、最後にNOと言いづらくなりました。また、「2時間も付き合わせたのだから…」と、費やした時間や労力を無駄にしたくないという心理も働きました。
【自己防衛マニュアル】怪しい不動産投資勧誘を見抜く7つの危険信号
同じ失敗を繰り返さないために、悪質な業者に共通する「危険なサイン」を覚えておきましょう。一つでも当てはまれば、即座に話を打ち切るべきです。
悪質勧誘チェックリスト
投資に「絶対」はありません。断定的な利益を約束する行為は法律で禁止されています。
空室、家賃下落、金利上昇、災害など、リスクを説明しない業者は信用できません。
高額な商品を、考える時間も与えずに売ろうとするのは典型的な手口です。
「その点はご安心ください」「大丈夫です」など、根拠のない返答で話を逸らすのは危険です。
まともな会社であれば、最初に会社名、担当者名、電話の目的を明確に伝えます。
ローン審査の甘さを売りにするのは、それしか強みがない危険な会社の可能性があります。
契約を検討するなら、必ず会社名を検索し、第三者の評価を確認しましょう。
【撃退法】しつこい勧誘電話を秒殺する最強フレーズ集
もし、しつこい勧誘電話がかかってきたらどうすればいいか。曖昧な態度は相手を期待させるだけです。以下のフレーズを使って、毅然とした態度で断ち切りましょう。
基本の断りフレーズ
「不動産投資には、まったく興味がありませんので失礼します」
ポイントは「検討します」「今は忙しい」など、相手に期待を持たせる言葉を使わないこと。「興味がない」と明確に伝え、すぐに電話を切りましょう。
法律を武器にする撃退フレーズ
「宅地建物取引業法では、断られた相手への再勧誘は禁止されています。今後一切、お電話はなさらないでください」
宅建業法第17条では、契約を締結しない旨の意思表示をした者に対する勧誘の継続・再勧誘を禁止しています。この一言で、ほとんどの業者は法律違反を恐れて引き下がります。
最終通告フレーズ
「これ以上しつこいようでしたら、免許行政庁と消費生活センターに通報します。御社名と、あなたのお名前は控えました」
具体的な機関名を出すことで、相手に強いプレッシャーを与えることができます。これは最終手段ですが、非常に効果的です。
まとめ:失敗から学び、正しい一歩を踏み出すために
今回の杉本さんの事例は、決して他人事ではありません。しかし、彼がその後、すぐに専門家に相談し、所有物件の売却も含めたリカバリープランを実行に移せたことは、不幸中の幸いでした。
重要なのは、すべての不動産投資や勧誘が悪ではない、ということです。中には誠実な会社や、あなたの資産形成に真摯に向き合ってくれる担当者もいます。
この記事の教訓
- 甘い言葉だけで、その場で契約を絶対にしない。
- リスクを説明しない業者は100%信用しない。
- 断るときは、曖昧な態度は取らず、毅然と断る。
- 正しい知識を身につけ、信頼できるパートナーを見つけることが成功の王道。
不動産投資は、正しい知識を持って臨めば、将来の大きな資産となり得ます。そのためにも、まずは信頼できる情報源から、投資の全体像を学ぶことが不可欠です。
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一人で判断する前に、ご相談ください
「もしかして、自分も同じような勧誘を受けているかも…」
「契約してしまったけど、不安で仕方ない…」
少しでもそう感じたら、手遅れになる前に専門家の客観的な意見を聞いてみませんか。
私たちは、あなたの味方です。

赤坂ファイナンシャル株式会社 代表取締役
元大手企業勤務、3,000人以上の相談実績と著書『地味な投資で2000万円』を持つお金のプロ。ファイナンシャルプランナー、クレジットカードアドバイザー®として、難しい金融の話を初心者向けにわかりやすく解説しています。
主な実績
著書:『自由に生きるための 地味な投資で2000万円』
メディア出演:テレビ朝日「グッド!モーニング」、週刊SPA!、現代ビジネス、プレジデントオンライン等 多数
講演実績:一部上場企業、経営者団体など