日本でハイパーインフレは起きるのか?専門家が解説する3つのシナリオと今すぐできる備え

日本でハイパーインフレは起きるのか?専門家が解説する3つのシナリオと今すぐできる備え


「物価の上昇が止まらない…このままハイパーインフレになったらどうしよう?」
最近のニュースを見て、そんな不安を感じている方も少なくないでしょう。

この記事では、金融の専門家として、日本におけるハイパーインフレの可能性を冷静に分析し、考えられる3つの未来シナリオと、私たち一人ひとりが今すぐ実践できる備えについて、わかりやすく解説します。

まず結論から:

ジンバブエのようなハイパーインフレが明日起きる可能性は極めて低いです。しかし、「良いインフレ」ではない「悪いインフレ」が継続・悪化するリスクは十分にあり、資産が実質的に目減りしていく未来に備えることは、もはや必須と言えます。

そもそも「インフレ」には2種類ある


インフレと聞くと悪いイメージを持つかもしれませんが、実は「良いインフレ」と「悪いインフレ」の2種類があります。

① 良いインフレ(ディマンドプル・インフレ)

景気が良く、みんなが「モノを買いたい!」と思うことで物価が上がる状態です。企業の売上が上がり、私たちの給料も増え、さらに消費が活発になる…という経済の好循環が生まれます。日本の高度経済成長期がこれにあたります。

② 悪いインフレ(コストプッシュ・インフレ)

私たちが2022年以降に経験しているのが、こちらのタイプです。原油価格や原材料費、円安による輸入コストの上昇など、企業のコスト増が原因で物価が上がる状態です。景気は良くないのに、物価だけが上昇するため、私たちの生活は圧迫され、苦しくなります。

専門家が考える、日本の「3つの未来シナリオ」


シナリオ①:【可能性:高】
「悪いインフレ」と「緩やかな円安」の継続

最も可能性が高いシナリオです。物価は2〜4%程度で上昇し続ける一方、賃金の上昇はそれに追いつきません。円安も続き、輸入品は高止まり。銀行預金の価値は実質的に毎年少しずつ減り続ける、いわば「静かな資産目減り」が進行する未来です。

シナリオ②:【可能性:中】
スタグフレーション(不況下の悪性インフレ)

地政学リスクの高まりやさらなる資源価格の高騰で、インフレが加速。しかし、国内景気は後退し、失業率も上昇する最悪の経済状態です。政府・日銀は、景気対策とインフレ対策の板挟みになり、有効な手を打てなくなる可能性があります。

シナリオ③:【可能性:低】
テールリスクとしてのハイパーインフレ

これは、天災や大規模な戦争といった予測不能な事態により、日本の財政や円に対する信頼が完全に失われた場合にのみ起こりうる、確率の低いシナリオです。国債が暴落し、円の価値が紙くず同然になる状態を指します。

過去、第二次世界大戦後の日本は、莫大な戦費で財政が破綻し、ハイパーインフレを経験しました。その際、政府は国民の資産を強制的に没収する**「預金封鎖」と「新円切替」**という荒療治で乗り切った歴史があります。これは、日本円の現金預金だけを持つことの究極のリスクを物語っています。

なぜ「銀行預金だけ」では危険なのか?インフレでお金が「溶ける」仕組み


どのシナリオでも共通する最大のリスクは、インフレによって「現金(預金)」の価値が実質的に失われることです。この「お金が溶ける」という感覚を、具体例で見ていきましょう。

【例え話】100円のジュース

今年100円で買えたジュースが、インフレで来年には110円に値上がりしたとします。あなたが持っている100円玉は、額面こそ100円のままですが、去年まで買えたはずのジュースがもう買えません。これが「お金の価値が下がった(購買力が低下した)」状態です。

この現象は、銀行預金のような大きな金額になると、より深刻な影響を及ぼします。

【衝撃の事実】年3%のインフレで、100万円は10年後に「74万円」の価値になる

もし、あなたが100万円を金利0%の銀行に預け、世の中の物価が毎年3%ずつ上がり続けたら、あなたの100万円で買えるモノの量はどうなるでしょうか?

1年後 約97万円の価値に
3年後 約91万円の価値に
5年後 約86万円の価値に
10年後 約74万円の価値に

銀行の通帳に記載された数字は「1,000,000」のままですが、その実質的な価値(購買力)は、10年間で26万円も失われてしまうのです。これが、インフレ時代に現金だけを持つことの最大のリスクです。

歴史を振り返ると、第二次世界大戦後の日本では、政府が発行した借金(戦時国債)の価値がなくなり、猛烈なハイパーインフレが発生しました。この時、政府は「預金封鎖」を行い、国民の預金を一時的に引き出せなくした上で、資産に最大90%もの税金をかけ、強制的に没収しました。タンス預金も「新円切替」で紙くずとなり、現金で資産を持っていた人々は大打撃を受けました。一方で、土地などの「実物資産」を持っていた人々は、資産価値を守ることができたのです。

【結論】今すぐできる、未来への4つの備え


どのシナリオが現実になっても、「日本円の現金預金」だけでは資産を守れないことは共通しています。以下に、私たちが今すぐ始めるべき具体的な備えを4つ紹介します。

  1. インフレに強い資産を持つ(NISAの活用)
    インフレヘッジの基本は、現金以外の資産を持つことです。特に、全世界や米国の成長企業の株式に投資するインデックスファンドは、長期的に見てインフレ率を上回るリターンが期待できます。まずは新NISAで少額から始めるのが王道です。
  2. 「円」以外の通貨を持つ
    シナリオ①の「緩やかな円安」に備えるため、資産の一部を米ドルなどの外貨で持つことが有効です。米国株ファンドへの投資も、実質的にドルを持つことになるため、自然な円安対策になります。
  3. 「実物資産」を検討する
    シナリオ③のような万が一の事態では、紙幣や電子マネーの価値が失われるリスクがあります。不動産や金(ゴールド)といった「実物資産」は、究極のインフレヘッジとして機能します。ポートフォリオの一部として検討する価値はあります。
  4. 自己投資で「稼ぐ力」を上げる
    最大のインフレ対策は、物価上昇を上回るペースで自身の収入を増やすことです。スキルアップや副業への挑戦など、自分自身の価値を高める「自己投資」を怠らないことが、どんな時代でも最も確実な備えとなります。

未来を正しく恐れ、賢く備える

ハイパーインフレを過度に恐れる必要はありません。しかし、私たちの資産価値が「静かに」失われていくリスクは、すぐそこまで来ています。未来を正しく理解し、今日から賢く備えることで、どんなシナリオが来ても対応できる、しなやかで強い家計を築いていきましょう。

▶︎ 日本の年金制度の現状についても、ぜひ合わせてお読みください。
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