長期投資マガジン365【2025年6月16日号】

長期投資マガジン365

【2025年6月23日号】

マーケット概況:金(ゴールド)価格の”今”と”これから”

今週は、安全資産の代表格である「金(ゴールド)」に注目します。ここ数年の価格変動と、その背景にある要因を理解することで、長期的な視点での金の役割が見えてきます。

金(ゴールド)を3年スパンで丸ごと把握!

年・出来事 価格の動き(終値ベース、概算) 主なドライバー
2022年
(6月ごろ=米利上げピーク期)
1,850 → 1,750 USD/oz と調整
  1. FRBの急速な利上げでドル高・債券利回りが上昇
  2. インフレのピークアウト観測で安全資産需要が一服
2023年
(3月=米地銀危機)
1,750 → 2,050 USD (+17%)
  1. 米国の複数の中小銀行破綻による「信用不安」
  2. FRBの利下げ観測が再浮上
2024年
(通年)
2,050 → 2,400 USD超へ (+17%以上)
  1. 中国・インドなど新興国での宝飾・実物需要が回復
  2. 各国中央銀行の金購入が歴史的なペースで継続
2025年 4月
(地政学リスクの高まり)
高値圏で推移 約2,300 USD台
  1. 中東情勢の緊迫化など地政学リスクの高まり
  2. ドル高一服+米長期金利の低下観測
直近 6月20日 約 2,320 USD
  1. 高値圏での利益確定売りが出つつも、根強い安全資産需要が続く

ひと言まとめ:金は「インフレ」と「地政学リスク」の双方に備える資産として再評価が進んでいます。

価格を動かす5つの主要因

  • 米ドル・実質金利:基本的に「ドル安」&「実質金利の低下」が金価格にプラス。
  • 中央銀行の買い:「外貨準備の多様化」目的で各国がドル以外の資産として金を購入。
  • 消費国の需要:中国やインドでの宝飾品や金地金の需要。
  • 投資マネーの流入/流出:金ETF(上場投資信託)への資金の出入りが短期的な価格を左右。
  • 有事の保険需要:戦争や金融不安など、世界が不安定になるときの「もしも」に備える需要。

初心者向け “金” の見かた

チェック項目 どう読む? 代表データ・現在の状況
1. 米10年債利回り 4.0%を下回ると金利を生まない金にとって追い風になりやすい。 現在:4.2%前後で推移
2. ドル指数(DXY) ドルと金は逆相関の関係。ドルが安くなるとドル建ての金は割安になり買われやすい。 2024年後半からややドル安傾向。
3. 中央銀行の買い越し量 世界の潮流を知る上で重要。月50トン超の買いが続けば価格は底堅い。 2024年以降も高水準を維持
4. ETFの金保有残高 残高が増加(資金流入)すれば短期的な上昇要因に。 2025年に入り、資金流出傾向が一服。

💡 投資アイデア(少額からOK)

  • NISAの「成長投資枠」で金ETFを買う: 例として「純金上場信託(1540)」などがあります。
    ※注意:金ETFは「つみたて投資枠」の対象外です。
  • 外貨建て商品で二重のヘッジ効果を狙う: 米ドル建ての金商品なら、有事の「金高」と「円安」のダブルで資産価値が守られやすくなります。
  • ポートフォリオの5〜10%が目安: まずは資産全体の5%程度から。投資信託なら月々1,000円や100円といった少額からでも始められます。

小テストで理解度チェック!

  1. 金価格に大きな影響を与える「実質金利」。これはどのように計算されるでしょう?
  2. 世界の中央銀行が金を買い続ける主な理由を2つ挙げてみましょう。
  3. もしあなたの資産配分(ポートフォリオ)に金を10%組み入れるとしたら、どの資産の割合を減らしますか?(正解はありません。ご自身の考えを整理してみましょう)

▼ 解答と解説

1. 「実質金利」の計算方法は…

答え: $実質金利 = 名目金利 – 期待インフレ率$

解説:「名目金利」は普段ニュースで見る国債などの利率のことです。ここから、世の中が予測する将来の物価上昇率(期待インフレ率)を差し引いたものが「実質金利」です。金利を生まない金は、この実質金利が低い(特にマイナスの)状況で魅力を増します。なぜなら、銀行預金などの価値がインフレで実質的に目減りしてしまうため、価値の保存がきく金が選ばれやすくなるからです。


2. 中央銀行が金を買い続ける理由は…

答え: ①外貨準備の多様化(脱ドル依存)、②通貨の信用の裏付け

解説:多くの国は、基軸通貨である「米ドル」を外貨準備として大量に保有しています。しかし、米ドルだけに頼るとアメリカの経済・金融政策に影響されすぎるため、リスク分散のために普遍的な価値を持つ金を買い増しています。また、どの国にも属さない金は、自国通貨の信認を高める「最後の砦」としての役割も担っています。


3. 資産の何を減らして金を組み入れるか…

答え:この問いに正解はありません。ご自身の投資スタイルによって変わります。

考え方の例:

  • 守りを重視する場合:インフレに弱い「現金・預金」の割合を少し減らし、その分を金に振り替える。現金の価値が目減りするのを防ぐ狙いです。
  • バランスを重視する場合:「株式」の割合を少し減らして金に振り替える。株価が下がるような金融不安の局面で、金は逆に値上がりする傾向があるため、資産全体の値動きをマイルドにする効果が期待できます。

ご自身の資産全体のリスクバランスをどうしたいか、考える良いきっかけになりますね。


資産形成のヒント:#日本版FIRE へのロードマップ

⓪ ウォームアップ:いま #日本版FIRE が再燃中

なぜ話題?

  • 日経トレンディ×ラジオNIKKEIのポッドキャスト「日本版FIREの最適解を探る」配信後、SNSで #サイドFIRE などの投稿が急増。
  • 新NISAの開始で「インデックス積立 × 早期リタイア」というテーマへの関心が再び高まっています。

用語整理

FIREのタイプ 月の生活費 主な収入源 備考
LeanFIRE (リーンファイア) 15万円以下 運用益のみ 最小限の生活コストで実現
SideFIRE (サイドファイア) 15〜25万円 運用益+副業収入 (〜10万円) 完全なリタイアではなく “半リタイア”
FatFIRE (ファットファイア) 40万円超 運用益のみ 経済的にゆとりのある生活

① Step 0:“防衛資金” を土台にする理由

FIREや資産形成を目指す上で、何よりも先に準備すべきが「生活防衛資金」です。これは、投資の土台であり、心の安定剤になります。

Why? (なぜ必要?) 具体的な効果
急な出費で資産を
取り崩さないため
市場が暴落しているタイミングで、急な医療費や失業が発生しても、焦って投資信託などを売らずに済みます。
投資メンタルの
安定剤として
「いざとなればこのお金がある」という安心感が、株価下落局面でも冷静に積立を継続する力になります。

推奨額の目安

月生活費 × 3〜12 か月分 が一つの目安です。

  • 共働き・副業ありの方 ⇒ 3〜6か月分
  • 自営業・子育て世帯の方 ⇒ 9〜12か月分

② ケース別シミュレーション

生活防衛資金を確保した上で、現実的な目標額を見てみましょう。ここでは「SideFIRE」を例にします。

ケース 生活費 防衛資金 “SideFIRE” 必要資産額* 毎月投資額
(利回り4%, 15年目標)
A. 25歳・独身 20万円 120万円 (6か月) 6,000万円 約16万円
B. 35歳・共働き+子1人 28万円 196万円 (7か月) 8,400万円 約23万円
C. 45歳・高所得 35万円 350万円 (10か月) 1億500万円 約40万円

* 計算式:年間支出 ÷ 4%ルール = 年間支出の25倍

💡 誌面ポイント

  • 資産配分モデル:FIRE達成後のポートフォリオは、安定性を重視します。(例:株式70%、債券20%、金10%など)
  • 応用術:もし副業で月10万円の収入を確保できれば、運用益で賄うべき生活費が減るため、必要資産額を約25%〜30%も圧縮できます!

③ 道のり設計(貯蓄率別の達成年数 早見表)

FIRE達成の鍵は「貯蓄率(手取り収入から貯蓄・投資に回す割合)」です。貯蓄率が高いほど、達成までの期間は劇的に短くなります。

貯蓄率 FIRE達成までの目安年数
10% 約34年
25% 約20年
40% 約13年
60% 約8年

💡 初心者Tip

いきなり高い貯蓄率は目指さなくてOK。まずは現在の貯蓄率に「+5%」を目標にしてみましょう。そして、生活防衛資金が貯まったら、その分を投資に回せるので貯蓄率はさらに上がります。定期的に貯蓄率と目標額を見直すことが大切です。

④ 防衛資金の置き場所と運用ルール

防衛資金は「安全性」と「流動性(すぐに引き出せるか)」を最優先に考えます。

置き場所 金利/利回り(目安) 取り崩し優先順位 メモ
ネット銀行の普通預金 〜0.3% ① 最優先 いつでも手数料無料で引き出せるのが魅力。
定期預金 (6か月など) 〜0.4% 普通預金より少し金利が高いが、満期まで引き出せない。
円建てMMF 〜0.5% 証券口座内で管理。ほぼ現金同様に即日売却可能。
先進国債券ETF 3〜4% 非推奨 “防衛資金を超えた”余剰資金の置き場所。元本変動リスクあり。

⑤ まとめ & 行動リスト

FIREへの道は、具体的な行動から始まります。以下のステップで、今日から一歩を踏み出しましょう!

  1. まずは生活費を正確に把握する(家計簿アプリなどで直近3か月の平均を出す)。
  2. 目標の防衛資金額(生活費×月数)を計算し、給与口座から別口座へ自動振替設定をする。
  3. 防衛資金が満額になったら、自分のFIRE目標額(年間支出の25倍)を算出してみる。
  4. 副業や配当で月10万円を確保できれば、必要額を25%圧縮できるとシミュレーションしてみる。
  5. 年に一度、“貯蓄率”“必要額”を見直し、計画をアップデートする。

読者からのQ&Aコーナー

初心者の皆さまからよくいただくご質問にお答えします。

Q. 新NISAを始めたいのですが、「全世界株式(オール・カントリー)」と「S&P500」、どちらを選べばいいですか?

A. どちらも長期投資の王道で、素晴らしい選択肢です。正解はありませんが、以下のように考えてみてください。

  • 全世界株式(オール・カントリー):世界中の国や地域にまるごと投資する、究極の分散投資です。「どの国が成長するかわからないから、全部に賭けたい」という方や、「とにかく迷ったらコレ」という安心感を求める方におすすめです。
  • S&P500:経済大国であるアメリカの主要企業500社に集中投資します。過去の実績は非常に高く、今後もアメリカの成長を強く信じる方向けです。ただし、リスクもアメリカに集中します。

結論として、迷ったらまずは「全世界株式」から始めてみるのが無難な選択と言えるでしょう。

Q. 円安が続いていますが、今から海外のインデックスファンドに投資を始めても大丈夫ですか?

A. 円安の時に始めると、円建ての価格が高く見え、「高値掴み」に感じるお気持ちはよく分かります。しかし、長期投資の観点では、過度に心配する必要はありません。

  • 長期的な視点:20年、30年という投資期間で考えれば、今の為替レートは将来振り返った時に「誤差」の範囲になる可能性が高いです。
  • ドルコスト平均法:毎月コツコツ同じ金額を積み立てることで、価格が高い時は少なく、安い時は多く買うことができます。この「時間の分散」は、為替変動のリスクを平準化する効果もあります。

投資のタイミングを完璧に計ることはプロでも不可能です。「思い立ったが吉日」として、まずは少額からでも積立投資をスタートさせることが最も重要です。

Q. 投資を始めてから、毎日株価が気になって仕事が手につきません…

A. そのお気持ち、投資を始めたばかりの方が通る道なので、とてもよく分かります。長期投資を成功させるには、日々の値動きと「良い距離感」を保つことが大切です。

  • 対策①:距離を置く:毎日アプリを開くのをやめ、チェックする頻度を「週に1回」や「月に1回」など、自分でルールを決めましょう。
  • 対策②:目的を思い出す:あなたが投資をしているのは「20年後の豊かな生活のため」など、長期的な目的があるはずです。日々の値動きは、その目的を達成するための単なる過程に過ぎません。
  • 対策③:「ほったらかし」を徹底する:積立設定を一度済ませたら、あとは自動で買い付けが行われます。あとは忘れるくらいが、長期投資家としては理想的です。

長期投資は、日々の値動きを楽しむ短期トレードとは全くの別物です。どっしりと構えて、時間を味方につけましょう。